近所の医者一族

僕の家の向かいにはクソでかい家がある。

その家の主人の職業は医者。

確か、皮膚科を経営している。

まぁ、豪華だ。

海外の材木で組み立てられているこの家は、ボタンを押すと上がっていく大きなガレージ、そこにはSクラスのベンツとGクラスのベンツがあり、カードで開けるドア、そして、SECOM。

僕の近所でこれよりデカい家はない。

幾らくらいかかったのだろうか、気になるくらい。

ここは確か4人家族で、コムデギャルソンを着て出勤する世帯主、キラキラしている奥様、そして僕より年が2つ上の長女、1つ下の次女がいる。

こういう家だからこの2人の娘達と小学校、中学校が一緒ということはない。

早くの段階からいわゆる「お受験」をしている。

中学かなんかの時、その進学先を聞いてとても驚いたのを覚えている。

近所だが、母親がゴミを出しに行く時に会えば軽く話すくらいで、後は殆ど接点がない。

僕なんか挨拶しかしたことない。

そんな医者一族と僕が初めて会話という会話をしたのが昨日だった。

自転車から帰ってきた僕はスタンドを立てて、家に入ろうとしたら奥さんに話しかけられた。

「大きくなったねぇ」という具合に。

そういえばなんか、顔を見るのはずっと久しぶりな気がした。

「はぁ、」と覇気のない返事をする。

「サッカーはまだ続けてるの?」と聞かれた。

正直驚いた。

僕がサッカーをやっていることを知っていたんだ、と。

近所の人間のやっていることなんてどうでもいい、というタイプかと思っていたから。

「いえ、高校で辞めました」と返すと、「あぁ、そうなのね。ところで大学はどこ通ってるの?」

僕はなんだが自分の大学のレベルをこの一族を前にした時、とても下に感じて、「京都の方まで行ってます」とはぐらかせた。

するとこう返された。

「へ〜、どこ?」

しつこいな、と思った。

「市内です」

後で考えたらなんだこの返答。

市内ってめっちゃ広いやん。

まぁ、なにはともあれ、具体名を出したくないというオーラは伝わっただろうと思ったらとんでもない質問が返ってきた。

「あぁ、違う違う、大学名」

この質問を聞いた時、「あぁ、この人は余裕がない」と思った。

自分の向かいに見えるGクラスのベンツがsmartくらいには小さく見えた。

娘がどこの大学に行ってるのか知らないが、僕みたいな一般家庭の奴の行ってる大学のレベルなんて、早くから受験してたあなたの娘さんと比べ物にならない事くらい分かりきっている。

多分そういったことを気にしているんだろう。

多分外れてないと思う。

小さいなぁ。

そんなこと、なんだっていいじゃないか。

まぁ、大学のランクをいちいち気にかけてはぐらかせた僕も僕ではあるが。

カマかけてやれ。

そう思って「まぁ、京大です」と返してやった。

もちろん、嘘。

すると「え…」という表情になった。

そして、「そんなに勉強できたのねぇ」と言った。

罪悪感が戻って、「冗談です。◯◯大です」と答えた。

すると「なぁんだぁ、もう、びっくりしたのじゃないのよ〜」と。

僕の大学を聞いてその安心した顔。

ダサい大人。

僕が嫌いなものだ。

この人はまさにそう。

僕の大学を聞いて満足したのか「勉強頑張ってね」と言って帰って行った。

ため息をついて、僕も家に入ると母親が玄関に立っていた。

聞いてたらしい。

ニヤニヤしていた。

ため息しか出ない。

晩ご飯の時、僕は母親に「あそこの長女は大学どこなの」と聞いたら「阪大」と教えてもらった。

奥さんの勝ち誇った顔が脳内再生された。

全く。

「もし、火事になったら、あの家、灯油リレーしてやる」と、母親に言った。

そしたら「あの家が燃えても、京都のどっかにあれよりデカイのがあるらしいよ」と言われた。

知らなかった。

負けた。

恐るべし、医者一族。

僕はあまり好きじゃないたまねぎの入った味噌汁を飲みながら、「火事になったらちゃんとバケツリレーして、見返りを貰おう」と誓った。

小さいなぁ、僕。